「あなたは知らなくてもよくってよな世界」 第1話・その6

その掘っ立て小屋は観光案内所ではなく、どうやら工事か何かの際に使われる休憩所のような小屋だったのですね。でまぁよく辺りを見渡してみると、そこは湖は湖でもダム湖だったわけなのですよ。何だよオイと笑いながらも、「まぁダムが近くにあるならその水流を下って行けば何所かに出るだろ」と車を発進させたわけですが、ダムから伸びる水流、川に沿って道をずんどこ下っていくうちに、かなり大きめの河川敷に出たのですね。うん、どうやらキャンプ場のようだったのですよ。「おや、こんな所に」と車を停め、その河川敷に出てみると、どうやらかなり前に、うん、熊が出没するようになった為か上流にダムが出来た所為なのかは知りませんけど、ずいぶん前から閉鎖していたみたいで、異様な寂寥感を醸し出していたんですが…………うん、そこはキャンプ場だったのですよ。場の中央には骨組みだけになった何かが、草木が乱雑に生い茂った中に見える黒ずんだシンクらしきものが、おそらくは共同調理場だったらしき場所が見え、木々に飲み込まれる寸前の古びたバンガローもそこにはあったのですよ。まぁ何ですか。よくドラマとかでやたら劇的なフラッシュバックのシーンを見ますけれども、いや、ホントにあの「過去を思い出す」瞬間ってのは、全身にサブイボが出ますわね。本当にあの時の木の洞の匂いや、夏の風いきれを感じましたもの。「いや、まさかね…」と若干震えながらタバコに火をつけ、ぐるりとそのキャンプ場を一周したわけなのですが、煙を吹かしながら歩いている内にだいぶ落ち着きを取り戻し、「まぁキャンプ場なんて何処も似通った作りだもの」と納得しながら車に戻ったわけですが、そこでふと、バンガローが気になってしまったのですね。 【つづく】