「あなたは知らなくてもよくってよな世界」 第1話・その3

まぁ野犬だと思ったらしいんですね。調理場の隅で何やらごそごそと動いていたので、焦げた肉とか野菜を漁っていると思ったらしいのですよ。さすがにこれはまずい、怖いと思って、お姉さんは慌ててバンガローに戻りかけたんですが、その気配に気付いたのか、謎の生き物は突然くるっとこちらを振り返って、とてとてと近付いてきたんですね。陰になっていた調理場から月の光に照らされる場所に出てきたその生物は……うん、「ごんぎつねのお母さんみたいだった」とはお姉さんの言葉なんすけどね。要は狐だったんですけれども、何かこう怖いとゆー感じは全く無く、親しみやすい?雰囲気だったそうなんです。今も昔も狐ってのは、住宅地とか観光地とか、人が集まる場所にエサ目当てに結構出没しますからね。お姉さんも見慣れていたので「何だ、キツネか」と思って逃げる足を止め、まぁそれでもちょっと遠巻きにして眺めてたらしいんすけど、その狐はお姉さんをちらと見やると、そのままキャンプ場を横切って森林に戻っていったんですが、まぁそこは子供の好奇心とゆーか、恐怖心が解けた反動で強気になっていたとゆーか、そのキツネの後をこっそり追いかけたみたいなんです。森林に入ってもキャンプ場が見える程度ぐらいの奥なら大丈夫とか、あまり守られる事の無い自分ルールwを作って。そして林の中に入っていく狐を追って獣道を進んでいくと、そんなに追わない内に、それこそ振り返ればキャンプ場がまだ見えるぐらいのところで狐は足を止め、お姉さんを振り返ったかと思うと「きゃん」と一声鋭く鳴き、急に方向を変えて走り出して、森林から脇の道路に下り、そのまま道を挟んだ向こうの山へと逃げていったみたいなのですね。さすがにお姉さんもその後を無理には追おうとはせずに、「ああ、逃げられちゃった」と残念がりながら、あきらめて大人しくキャンプ場に戻ったのですが…… 【つづく】