「あなたは知らなくてもよくってよな世界」 第1話・その2

でまぁそのお姉さんなんすけども、数年前に蝦夷から引っ越してきたらしいのですね。まぁ私は後に住む事になるんすけども、ガキんちょ当時は蝦夷へのイメージは貧困だったので、「牛いる? 牛いる?」と非常にアホらしいw事を聞いた覚えがあるんですが、そのお姉さんは「うん、牛も馬も狐もいるよ」とやさしく答えてくれた直後に急に表情を曇らせて、徐に私の両手を取ったかと思うと自分の正面に私を向き直らせ、若干厳しい顔で「うん、蝦夷にはたくさん動物がいるけど、山の中で出会ったとしても決して後をついて行ってはいけないよ」と何やら意味深な言葉を続けた後、ぽつぽつと話を始めました。そのお姉さんは小学校に上がり立ての頃、夏休みに親に連れられてとあるキャンプ場に行ったそうなんですが、川釣りやバーベキュー、バンガローでのお泊りと初めての体験続きに非常に興奮して陽気にはしゃいで、夜になっても親に呆れられるぐらい中々寝付けなかったらしいんですね。でもやはりそこは子供だし、昼間にたっぷり遊んだしで、いつの間にかとろとろと寝入ってしまい、そして何時頃かは分からないけれど、まだ辺りは真っ暗な夜中にぱちっと目を覚ましたそうなんです。キャンプ場での夜ってのは体験した方なら分かると思うんですが、ホントに静かで虫の声と風が揺らす草木の葉擦、川のせせらぎぐらいしか聞こえないんすよね。お姉さんは市街とは違うそのあまりの静けさに少し怯えつつも、昼間の興奮がまだ冷めやらない状態でもあったので多少気も大きくなっていたのか、親を起こさないようにこっそりバンガローを出て、月夜に照らされる夜のキャンプ場を探検し始めました。まぁさすがに周囲の森林は暗すぎて怖かったので其方には行かず、キャンプ場の中だけをてくてくとお散歩したそうなんですが、簡素な共同調理場に差し掛かった時、そこで何やら動くものを見つけてぎょっと立ち止まりました。【つづく】